南海トラフ、富士山噴火…複合災害に備える重要性
自民党の国土強靭化推進本部に「南海トラフ地震・富士山噴火対策検討委員会」が設置された。両者が連続して起こる可能性も踏まえ、国の施策を合わせて推進する趣旨で作られた。
富士山噴火対策に自民検討委が本腰 南海トラフ地震連動を視野に|静岡新聞DIGITAL 静岡県のニュース 自民党は23日、富士山噴火対策の検討委員会の初会合を党本部で開いた。南海トラフ巨大地震と連動して噴火する可能性も踏まえ、 news.at-s.com
1707(宝永4)年の宝永地震と宝永大噴火は、発生間隔が49日しか開いていない。地震が富士山噴火を誘発したのか。何か別の原因があり、それが地震と噴火の両方を引き起こしたのか。はたまた両者には何の関係もないのか。江戸時代に両者が連続して起きたという、一度限りの事象をもって因果関係を評価することは、きわめて困難である。これは、科学的な因果推論の限界であり、致し方のないことだ。
これまで政府は、地震、火山噴火、大雨などの災害対策を個別に推進してきた。昨年7月に見直された「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」においても、複合災害への言及はあるものの、その対策は、あくまで個別の災害対策の延長線上という位置づけだ。
〇 大規模地震発生後の長期にわたる復旧・復興期間において、暴風・高潮・大雨・土砂災害・火山噴火・原子力災害等の他の災害や様々な感染症等による複合的な影響が生じ得ることが考えられる。このため、それぞれの災害ごとの対策等の充実を図るとともに、複合災害の検討に当たっては、より厳しい事象についても可能な範囲で考慮した対策を図る
中央防災会議(2025)「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」p. 12より抜粋(強調表示は筆者)https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/nankaitrough_keikaku_honbun.pdf
…(中略)…
〇 また、複合災害は、想定され得る条件が多種多様であり、災害ごとの特性に応じた対応をできる限り円滑に行うことが基本であることから、対応の検討に当たっては、災害ごとの対策等の充実を図るとともに、より厳しい想定についても可能な範囲で考慮するものとする
私は、地震、火山噴火、大雨などの災害対策は、それぞれの因果関係や連動可能性に関係なく、常に複合災害を念頭に進める必要があると考える。なぜなら、複合災害への対策こそが、個別の災害対策になるからだ。
地震も火山噴火も大雨も、求められる政策はさほど変わらない。国や自治体の役割は、平時からインフラを整備し、情報を伝え、被災者を救出し、医療や物資の供給を守ること等である。
地震により避難道が寸断された状況で、火山が噴火した時、代替ルートは確保できているのか。洪水の避難場所に避難者が集まった状況で、津波警報が発令された時、その場所は安全なのか。そうでないなら、次の避難場所には安全に移動できるのか。「より厳しい想定」を突き詰めることは、個々の災害対策と矛盾することではない。むしろ、個別の対策の積み重ねよりも強力な効果をもたらすのではないだろうか。
話は少し飛躍するが、公共政策学には「リフレーミング」という概念がある。例えば、物であふれ返った住宅を見た時、「住人がだらしないだけ」ととらえれば、それは私生活の問題となり、公共部門がかかわる余地はない。しかし、同じ家を「ゴミ屋敷」ととらえれば、景観や周囲の衛生環境など、公共政策上の課題が一気に浮かび上がる12。
災害を個々の事象としてとらえた場合、ある地域でのそれぞれの発生確率は、数十年に一度かもしれない。個々の災害への備えとして政策を進めても、国民や政策当事者の危機意識を高めるには限界がある。しかし、災害大国たる日本において、自然災害は何らかの形で毎年必ず発生している。災害を複合的な事象の1つとしてとらえれば、国民も政策当事者も、災害をより現実的なものとして考え、危機意識を持つようになるのではないか。災害対策においても、そのようなリフレーミングが必要なのかもしれない。
政権与党が、巨大地震と火山噴火への対策を一体的に推進する姿勢を示したことは大きい。私は、個々の災害対策を進めるためにこそ、複合災害への対策を進めるべきだという姿勢で、今後の国の政策形成に臨んでまいりたい。
- 参照:塩見政幸(2022)「政策形成の職人芸――その5 問題の定義」https://shop.gyosei.jp/online/archives/cat02/0000057534?srsltid=AfmBOoobRWrp9jsW70T9WdWubMGT21iNRBJ4CyvRBM_8nmmJw0skQqbD(2026、7月3日閲覧) ↩︎
- 参照:秋吉貴雄・伊藤修一郎・北山俊哉(2020)『公共政策学の基礎』有斐閣 ↩︎